懐かしい風

ただ努力から逃げているだけだ

慰めてほしいだけだ

頑張っていると認めてほしいだけだ

 

他人のせいにしているだけだ

期待しているだけだ

それが不都合だと

被害者顔をするだけだ

 

いい人の仮面をかぶ

そういう自分が好きだから

自分が悪いと嘆く

その方がいい人に見えるから

 

日が暮れて 夏が終わり

大気はひんやりしている

肌寒い風の匂いを吸い込む

中学生のころ 部活の帰りにも

嗅いだことがあるその空気を

時を超えて場所を変えても

感じている

 

これまでの人生の

細かなエピソードたちは

泡のように消え去り

ぼんやりとしている

いま送っているこの毎日の

ほとんどのことを

いつかは忘れるだろう

 

だけど 私は

同じ私ではないのだ

他者との和合を学び

調和を望み

人を許し 自分を知り

他人を愛するということを学んだ

 

なにも覚えていないのに

私は少しずつ変わるだろう

 

歳を重ね

様々なものを見聞きし

見えるからこそ悩み

喜び 諦め

顔のシワを深める

 

そんな私が

幾度目かの夏の終わりに

冷たい風の匂いを嗅ぐ

少年のように

 

ああ

なにも思い出せないのに

懐かしい