"自分を勘定に入れずに"
自分に篭りそうになると
浮かんでくる一文
全体の中のわたし
そうスイッチすると
ふあっと目が覚める
高齢の夫人の食事を介助する
ティースプーン半量の粥を
ひとさじひと匙
数時間かけ根気強く運ぶ
息子の口に離乳食を
運ぶ日もそう遠くないと
こぼれ落ちる粥を掬いながら思う
100キロの大男だった老人は
40キロに痩せた体を笑い飛ばし
釣った石鯛をその場でさばいて
瓶ビールで楽しんだ西伊豆
もう叶わぬだろうと
癌で失い半分になった舌で呟いた
一週間なにも口にせず
手術の恐怖に耐え
テニスで焼けた強い体を
信じて頑張るその方は
挨拶のあと
すぐにわたしの名前を覚え
とりまく周囲の人間を
自分の体と同じくらいに
信じよう信じようとしていた
おどろくのは
今日、朝を迎えたとき
これから会う人たち
これから起こること
想像できたことがない
それは毎日の不安でしかないのか
それは毎日のわくわくと成り得るのか
それはわたし次第なのだが